ラストラン

エンジンをかけると、いつも通りの乾いた排気音。

聞き慣れたはずなのに、今日は少しだけ胸に刺さった。

今日がロードスターRF と走る最後の日。

特別な場所に行くわけでもなく、いつも走っていた道を、いつも通り流すことにした。

屋根を開ける。

冬の澄んだ空気が車内に入り込む。

この感覚が好きで、何度も何度もオープンにして走った。

信号待ち。

何気ない交差点。

コンビニの駐車場。

全部、このクルマと一緒だった。

仕事で落ち込んだ帰り道も、

考え事をしたい夜も、

ただ走りたいだけの日も。

アクセルを踏めば、軽やかに回るエンジンと、路面をダイレクトに伝えるハンドル。

「運転って、こんなに楽しかったんだ」

そう思い出させてくれたのが、このロードスターだった。

速さよりも、便利さよりも、

“走る楽しさ” だけを純粋に教えてくれるクルマ。

今の時代、こんなにわがままで、こんなに正直なクルマは、もう多くないと思う。

正直、何度も手放すのをやめようか迷った。

もう少し乗ろうか、とも思った。

でも、きっと区切りなんだと思う。

ライフスタイルも変わるし、次のステージに進むタイミングなのかもしれない。

最後にいつものワインディングを流す。

コーナーを抜けるたびに、

「ああ、やっぱり最高だな」って、何度も思った。

そして駐車場に戻って、エンジンを切る。

静寂。

いつもは何も感じないその「無音」が、今日はやけに長く感じた。

ドアを閉める音。

この音も、もう聞くことはない。

ありがとう、ロードスター。

たくさんの景色を見せてくれて、たくさんの時間を一緒に過ごしてくれて、本当にありがとう。

君と走った日々は、間違いなく人生の宝物です。

これが、本当のラストラン。

でもきっと、またいつかオープンカーに乗りたくなる気がする。

その時は、また思い出すんだろうな。

「最初に好きになったのは、ロードスターだった」って。